コラム

物流DXは、データやデジタル技術を活用し、輸送・保管・荷役などの業務やサービスを変革する取り組みです。
人手不足や長時間労働、燃料費の上昇、脱炭素への対応など、物流業界が抱える課題の解決策として注目されています。
本記事では、物流DXの基礎知識から導入時のメリット・デメリット、課題別の解決策まで分かりやすく解説します。
この記事を読むことで物流DXの全体像や導入のヒントがつかめるでしょう。
物流DXとは、データやデジタル技術を活用し、輸送・保管・荷役などの業務やサービスを変革する取り組みです。
単なる電子化にとどまらず、業務プロセスや組織の見直しも含みます。
まずはT化との違いや、物流DXが目指すゴールを確認しましょう。
デジタル化やIT化は、紙の伝票を電子データへ置き換えるなど、既存業務を効率化する取り組みを指します。
一方、DXはデジタル技術とデータを活用し、業務プロセスや組織、顧客へ提供する価値まで変える考え方です。
たとえば、配送状況をシステムへ入力するだけならデジタル化ですが、その情報を荷主や倉庫と共有し、配車や納品方法を再設計する場合はDXに近づきます。
両者は対立するものではなく、デジタル化を基盤として段階的に変革を進める関係です。
物流DXのゴールは、輸送や倉庫作業を部分的に自動化することだけではありません。
物流情報を可視化して関係者が共有し、需要や物量の変化へ柔軟に対応できる仕組みを整えることが重要です。
その結果として、作業負担や待ち時間の軽減、積載効率の向上、在庫の適正化、配送品質の安定などを目指します。
また、無駄な運行やエネルギー使用を抑えれば、環境負荷の低減にもつながります。
人と技術を適切に組み合わせ、持続可能な物流体制を構築することが最終的な目的です。
物流DXが注目される背景には、EC利用の広がり、ドライバーの時間外労働規制、人手不足など、物流を取り巻く環境の変化があります。
従来の人手や経験に依存した運用だけでは対応しにくいためです。
ここでは、物流DXを後押しする主な社会的・政策的背景を解説します。
EC市場の拡大は、個人宅へ少量の商品を届ける小口配送が増える背景の一つです。
店舗や企業へまとめて運ぶ配送と比べ、配送先や時間指定が細分化しやすく、再配達が発生すると車両やドライバーの負担も増えます。
そのため、需要予測、配送ルートの最適化、置き配や受取拠点の活用、在庫配置の見直しなどが重要です。
ただし、取扱個数や配送条件は事業者ごとに異なるため、自社データを分析し、負担が集中する地域や時間帯から改善する必要があります。
物流の2024年問題とは、2024年4月から自動車運転業務にも時間外労働の上限規制が適用され、従来の運行方法では輸送力を維持しにくくなる懸念のことです。
なお、長時間労働の是正はドライバーの健康と安全を守るために必要ですが、荷待ちや手作業が残れば、限られた時間で運べる貨物量は減少します。
そこで、配車計画の見直し、入出庫予約、荷役の機械化、運行情報の共有などを進め、拘束時間を短縮する取り組みが求められています。
国は、物流の生産性向上と持続可能性を確保する施策の一つとして、物流DXや標準化を推進しています。
具体的には、物流情報の可視化・連携、手続きの電子化、自動化機器の活用、共同輸配送などが検討・支援の対象です。
また、物流革新に関する政策では、荷待ち時間の短縮や積載効率の向上も重視されています。
補助事業や実証事業の内容は年度ごとに変わるため、導入を検討する企業は国土交通省や関係省庁の公式情報を確認し、自社の課題に合う制度を選びましょう。
物流DXは、業務の可視化や自動化を通じて、人員配置、コスト、配送品質、環境負荷の改善に役立ちます。
ただし、導入すれば必ず成果が出るわけではなく、課題に合う技術と運用が必要です。
ここでは、物流DXで期待できる4つの主なメリットを解説します。
物流DXは、人手不足そのものをなくすというより、限られた人員で処理できる業務量を増やし、負担を軽減する手段です。
たとえば、入出庫データの自動取得、AIによる配車支援、自動搬送機器の導入により、転記や移動、確認にかかる時間を減らせます。
また、作業量や進捗を可視化すれば、繁忙工程へ人員を配置しやすくなります。
ただし、例外対応や安全確認には人の判断が必要です。
導入後の役割を整理し、教育と業務設計を併せて行うことで、生産性向上につながります。
関連記事:EC物流の課題とは?よくある問題点と効率化の解決策を解説
配送、在庫、入出庫などの情報を一元管理すると、二重入力や電話確認、帳票作成などの作業を減らせる可能性があります。
さらに、配車やルートを見直せば、空車走行、残業、燃料使用量の削減にもつながります。
ただし、システム利用料や保守費用、教育費も発生するため、単純な人員削減だけで効果を判断するのは適切ではありません。
導入前後の作業時間、誤出荷件数、走行距離などを比較し、削減額と継続費用を含めた総費用で評価することが重要です。
関連記事:物流コスト削減の方法とは?内訳や上昇原因から成功事例まで徹底解説
車両位置や配送進捗を可視化すると、到着予定の案内や遅延時の連絡を迅速に行いやすくなります。
また、バーコードやシステムによる照合は、誤出荷や配送先の取り違えを抑える手段の一つです。
需要や交通状況を考慮した配車支援を活用すれば、無理のない配送計画も立てやすくなるでしょう。
ただし、データが不正確であれば案内の品質も低下します。
入力ルールや更新頻度を整え、例外時の連絡体制まで設計することで、顧客の安心感とサービス品質の向上につながります。
物流DXにより走行距離や積載率、燃料消費を可視化すると、無駄な運行を特定し、CO2排出量の削減策を検討しやすくなります。
共同輸配送、配送ルートの最適化、待機時間の短縮などは、燃料使用量の抑制にもつながるでしょう。
また、EVトラックやモーダルシフトを導入する際も、運行データを用いて適用しやすい路線を選定できます。
ただし、削減効果は輸送条件や電源構成で異なるため、導入前後の排出量を共通の算定方法で比較し、継続的に改善することが重要です。
物流DXには業務改善が期待できる一方、費用、人材、システム移行などの課題もあります。
目的や運用体制が曖昧なまま導入すると、現場の負担が増える場合もあるでしょう。
ここでは、導入前に確認したい主なデメリットと、リスクを抑える考え方を解説します。
物流DXでは、機器やソフトウェアの購入費だけでなく、ネットワーク整備、データ移行、教育、保守などの費用も発生します。
クラウドサービスを選んだ場合も、月額料金や利用者数、データ量に応じた継続費用が必要です。
そのため、導入価格だけで比較せず、一定期間の総保有コストを試算しましょう。
まず対象業務を限定して効果を検証し、成果が確認できた段階で拡大する方法が有効です。
補助金を利用する場合は、対象経費や交付決定前の契約制限なども確認する必要があります。
物流DXには、ITの知識だけでなく、輸送や倉庫の実務を理解し、課題を技術要件へ落とし込める人材が必要です。
しかし、こうした経験を備えた人材を外部から採用するのは容易ではありません。
そこで、現場を理解する社員とIT担当者、外部ベンダーが協働する体制を整え、社内人材を段階的に育成する方法が現実的です。
また、特定の担当者へ知識が集中すると運用が止まるリスクがあります。
手順書や判断基準を共有し、複数人が改善と運用を担える状態を目指しましょう。
既存システムからの移行では、蓄積データの形式や品質、周辺システムとの連携、現場独自の運用が課題になります。
移行範囲を一度に広げると、トラブル時の影響も大きくなるため、重要度の低い工程や一拠点から試す方法が有効です。
事前にデータを整理し、移行後の照合方法や障害時の復旧手順も定めましょう。
また、新旧システムを並行運用する期間は、二重入力や確認負担が増えます。
終了条件と責任者を明確にし、現場教育とサポート窓口を準備することが重要です。
物流DXの手法は、解決したい課題によって異なります。
労働時間、環境負荷、荷役効率、車両や倉庫の稼働率を整理し、適切な技術や連携方法を選ぶことが重要です。
ここでは、自動運転、中継輸送、モーダルシフト、標準化、共同利用の具体策を解説します。
中継輸送は、長距離運行を複数のドライバーで分担し、各自が日帰りしやすい運行体制を整える方法です。
拘束時間の短縮に役立ちますが、交換拠点、車両、貨物情報の共有が必要になります。
一方、自動運転トラックは将来の省人化が期待されるものの、走行区間や運行条件が限定された実証・導入段階の技術も多く、直ちにすべての輸送を代替できるわけではありません。
まずは中継輸送や配車改善を進め、自動運転は安全性、法制度、費用を確認しながら検討しましょう。
EVトラックは走行時に排気ガスを出さないため、配送拠点周辺の環境負荷を抑える手段になります。
ただし、航続距離、充電時間、積載量、充電設備、電源由来の排出量を確認する必要があります。
短距離で走行ルートが固定された配送から導入を検討すると、運用条件を整理しやすいでしょう。
また、モーダルシフトは、長距離輸送の一部を鉄道や船舶へ切り替える方法です。
貨物量やリードタイム、発着地を踏まえ、トラック輸送との組み合わせを設計することが重要です。
パレットの寸法や運用ルールを標準化すると、企業間の積み替えを減らし、フォークリフトや自動化設備を利用しやすくなります。
また、荷役ロボットや自動搬送機器は、重量物の移動や反復作業を支援し、作業負担の軽減に役立つでしょう。
ただし、荷姿や重量が不統一なままでは、自動化機器が対応できない場合があります。
自社だけで規格を決めず、荷主、倉庫、運送事業者と調整し、既存設備や積載効率への影響も確認したうえで段階的に導入しましょう。
共同輸配送や共同保管は、複数の荷主・物流事業者が車両、配送網、倉庫スペースなどを共有し、稼働率を高める取り組みです。
配送先や時間帯が近い貨物をまとめれば、積載率の向上や走行回数の削減が期待できます。
ただし、商品特性、温度帯、納品条件、責任範囲が異なると共同化が難しくなります。
したがって、参加企業間でデータ形式や料金配分、事故時の対応、顧客情報の管理方法を定め、小規模な地域や路線から効果を検証することが重要です。
物流DXは、単にシステムやロボットを導入するだけでなく、データを活用して業務プロセスや組織、サービスのあり方を見直す取り組みです。
具体的に、人手不足、長時間労働、物流コスト、脱炭素などの課題に対し、配車最適化、倉庫自動化、共同輸配送、WMS・TMSの活用などが改善策となります。
ただし、費用や人材、既存システムからの移行といった課題もあるため、現場データを可視化し、対象業務を絞って小さく始めることが重要です。
導入効果を継続的に検証し、経営層と現場が連携しながら段階的に展開することで、持続可能で競争力のある物流体制につなげられます。
この記事の監修者

川口 貴弘(かわぐち たかひろ)
株式会社アールジャパン 常務取締役/営業統括マネージャー
プロフィール
EC・通販物流代行サービスを提供する株式会社アールジャパンにおいて、常務取締役および営業統括マネージャーを務めるビジネスリーダーです。
通販物流の最前線で培った豊富な経験と知見を活かし、クライアント企業の物流戦略と業務最適化を支援しています。